Smart Liberty

とある集まりで、みんなが書きためた作品を発表する場として作りました。

ウサギとカメ (ラ行抜き)

 昔々、辺境の地にウサギが一羽住んでいました。ウサギにはカメの旦那がいて、いつもウサギは川に魚を捕まえにカメは家で家事をしていました。最近ちょっと有名な主夫です。以前はカメが魚を捕まえていましたが、年を重ねたことで腕のパワーが低下し、川に落ちてしまうことが多くなってしまったので、仕方なくウサギが魚を捕まえていました。彼女は耳の聞こえが非常に良く、脚のバネもあったので、旦那を越す程、魚をたくさん捕まえました。カメはこの生活に満足していました。
「ねえ、あなた。こんなド田舎じゃなくて、もっと街に近い場所に引っ越しません?」
 某月某日、ウサギは思いつめた顔でカメに言いました。
「どうしてだい?」
 カメは不思議そうに言います。ずっと昔から住んでいた地をカメは手放したくなかったのです。ウサギは言います。
「だって都会の方が良いじゃない。あなたは主夫なんてせずにもっといい仕事に就職可能だと思うし、きっと私だって他の仕事に就職可能よ。私はもっと良い生活をしたいの! 旅だってしたいし、友達と食事にもいきたいの! あなたの背中の重石のせいで人生を楽しめないなんていやよ!」
 そう叫んだウサギはふうと息を吐く。カメは茫然自失だ。妻がそんなことを考えていたとは思いもしなかった。カメはしばし考えた。彼女はその間、何も言わなかった。そのことがかえってカメは気になった。もっと、田舎はダメだと泣いて懇願して欲しかった。カメは無言で妻に追及されたようだった。カメは故郷を捨て、妻と街へ出て行くことを決意した。

―三年後―

街には仕事がたくさんあったが困難もたくさんあった。夫婦は今まで以上に結束した。

ウサギはいつも笑顔で印刷会社から帰宅するカメを出迎えた。
END

著・明智珠華